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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(オ)22号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は末尾添附の上告理由と題する書面記載のごとくであつて、これに対する判断は次のとおりである。

上告理由第一点について。

本件記録を調べてみると、被上告人は本訴請求の原因として(一)訴外安部正治は昭和一二年三月四日福岡区裁判所において破産の宣告を受け、被上告人はその破産管財人に選任されたのであるが、前記安部正治は営業の失敗によつて多額の債務を負担していたので財産隠匿の目的で昭和一一年二月一七日上告人との間に右正治の所有に係る本件不動産につき虚偽の売買を仮装して同日福岡区裁判所東郷出張所受附第四七七号をもつて売買に因る所有権移転の登記をして右不動産を上告人名義に変更したのであるが、右の登記は仮装の売買に因る無効のものである。(二)仮りに、右の売買が仮装のものでないとしても、訴外安部正治は右売買当時債務超過の状態にあつて本件不動産を処分することが一般の債権者を害することを知りながら右の売買をしたのであるから被上告人は受益者である上告人に対して右の売買を否認すると主張して上告人に対し本件不動産の所有権移転登記の抹消を求めたことが明かである。すなわち、被上告人は(一)においては本件不動産の所有権が終始訴外安部正治に帰属していたことを主張し(二)においては仮に然らずとしても被上告人の否認権の行使によつて否認の効力が発生して本件不動産の所有権は当然訴外安部正治に復帰したのであつて、いずれにしても本件不動産が訴外安部正治の所有に属することを主張してその所有権に基づく物上請求権を本訴の訴訟物として登記の抹消という一個の請求をしたものであり、前記(一)(二)の主張は右の物上請求権を理由あらしめこれを維持するための攻撃方法として提出したものに外ならず、所論のごとく売買の効力に関する請求と否認権の行使に関する請求との本来別個の二個の請求を予備的に併合したものではない。つまり攻撃方法が二個あつただけで訴が二個あつたのではない。其故第一審においても(一)の主張に対しては理由中で判断しただけで請求棄却の裁判をして居らず、従つて被上告人は控訴など出来なかつたものである。されば、前記(二)の主張を是認して被上告人主張の物上請求権に因る本訴請求を認容した第一審判決を不服として上告人が提起した控訴において、原審が前記(一)の主張を是認して被上告人の本訴請求を認容して上告人の控訴を棄却したからとて、原審は上告人が控訴審において抗争した被上告人主張の前記物上請求権の有無について審判したことに変りはないのであるから、所論のように不服申立の限度を超えて第一審判決を上告人の不利益に変更したものと言うことはできない。論旨は以上と異なつた見解を前提として原判決を非難するものであつて理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よつて民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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